マンションの大規模修繕工事はうるさい？騒音がでやすい工程や対策を紹介

マンションを長期にわたり快適に保ち、資産価値を維持するためには、定期的な大規模修繕工事が不可欠です。

しかしこの工事期間中、多くの居住者や近隣住民が直面する問題の一つが「騒音」です。

工事に伴う騒音は、日常生活に影響を与え、時にはストレスやトラブルの原因となることもあります。

工事中の騒音を完全にゼロにすることは難しいですが、原因を理解し、適切な対策を講じることで、その影響を最小限に抑えることが可能です。

この記事では、マンションの大規模修繕工事でなぜ騒音が発生するのか、どのような工程が特にうるさいのか、そして騒音に関する法律や工事業者・管理組合・マンションオーナー・居住者それぞれができる具体的な騒音対策について、解説します。

大規模修繕とは？

マンションやビルなどの集合住宅において、建物全体の劣化を防ぎ、修繕するために行われるのが大規模修繕工事です。

10〜20年ごとに計画されるのが一般的で、主に共用部分が修繕の対象となります。

具体的には、外壁のひび割れや塗装の剥がれ・屋上の防水工事や設備の劣化などが挙げられます。

一方、専用部分については、各住民が自費で修繕を行うのが原則です。

ただし、バルコニーや窓枠の一部のように、特例的に共用部分とみなされるケースもあります。

修繕計画を立てる際には、管理規約によるため事前の確認が必要です。

マンションにおける共用部分と専用部分の理解

大規模修繕は、必要な部分に最適な修繕を施し、建物を長く快適に保ち長期的な安全性と快適性を維持することを目的としています。

また、住環境と資産価値・生活水準の向上だけではなく、建物の美観と機能を長期間保ったり、建物の構造や設備の性能を上げたりすることも期待できます。

マンション大規模修繕で「うるさくなる工程」とその原因

マンションの大規模修繕工事では、特定の工程で特に騒音が発生します。

物理的な作業が伴うこれらの工程は、工事全体の中で避けて通ることができず、一定の騒音を伴うことは避けられません。

では、具体的にどのような工程が騒音の原因となるのかを見ていきましょう。

足場の設置・撤去

大規模修繕工事では、安全な作業のために仮設足場を設置・撤去します。

足場の材料は主に鉄骨でできており、この工程は特に騒音を発生させやすいです。

具体的な作業内容には、以下のようなものがあります。

• 鉄骨の組み立てや解体による金属音の発生
• 壁つなぎの設置に伴う穿孔ドリルの騒音
• 資材の積み下ろし・運搬時の衝撃音

高圧洗浄

外壁や屋上のコンクリート下地の洗浄に用いられる高圧洗浄は、仕上げを左右する重要な工程ですが、騒音の大きな原因となります。

高圧洗浄機は強力なモーターやエンジンで水を高圧噴射するため、機械自体の稼働音が大きいです。

特に、大規模修繕ではより強力な機械が使われることも多く、騒音レベルが高まる傾向があります。

これらの機械は長時間動作するため、騒音が継続します。

なかには、遮音性の高い機種によってもありますが、エンジン音は避けられません。

また、高圧で噴射された水が外壁に勢いよく当たる際にも、大きな音が発生します。

特に硬い外壁材に当たると反響が大きく、洗浄面積が広いほど広範囲に影響を及ぼします。

外壁の修繕

外壁の状態を回復させるための修繕作業も、騒音を伴います。

さまざまな機械を使用しての作業が必要なため、騒音レベルが高い工程と言えるでしょう。

• 電動カッターを使用してのタイルの撤去
• 接着剤を注入する際に必要なドリルによる穴あけ
• ドリルやサンダーなどを使用して行う外壁コンクリートの下地補修

建物の外側にて作業されることも多いため、居住者だけではなく、隣接する建物に住んでいる方にとっても大きな負担となる要素でもあります。

舗装などの撤去工事

マンション敷地内の駐車場や道路などの舗装改修では、既存のアスファルトなどを撤去する作業が発生します。

この撤去作業も、特に大きな音が生じる工程です。

工事範囲が広いと、その分騒音発生時間も長くなる傾向があります。

工事に関連する活動によるもの

大規模修繕における騒音は、作業時に発生する音だけが原因ではありません。

工事を行ううえで必要な活動によっても、騒音が発生します。

• 工事関係車両…資材搬入・廃材搬出のためのトラックや重機による、エンジン音・バックアラーム・荷物の積み下ろし音などの騒音
• 作業員の活動…多くの作業員が活動するため、工員同士の安全確認や指示を出す声・足音による騒音

これらの騒音は、工事の効率や安全確保のために避けられない面もありますが、居住者にとっては生活に支障をきたす要因となります。

継続的に続けばストレスを大きくし、マンション住民だけでなく近隣住民からの苦情につながる可能性もあるでしょう。

マンション大規模修繕工事における騒音規制法

騒音規制法とは

騒音規制法は、国民の生活環境の保全を目的に制定された法律です。

この法律の主な目的は、工場や建設工事・交通機関などから発生する騒音が住環境や健康に及ぼす悪影響を防止し、快適な生活環境の確保を図ることにあります。

特に都市部や住宅密集地においては、騒音問題が住民の生活の質を著しく損なう場合が多く、騒音によるストレスや健康被害が社会問題になりやすいです。

こうした背景から、騒音規制法は国が基準を設け、騒音の発生を抑制することで環境の悪化を防ぐ役割を担っています。

この法律では、騒音の発生源ごとに規制基準が細かく定められており、工場・建設工事・交通機関などが対象となります。

工事現場では、使用する機械や工事方法に一定の制限がかけられ、必要に応じて騒音測定が義務付けられています。

また、違反した場合は行政指導や罰則が科されることもあります。

適用範囲と規制基準

騒音規制法は、具体的に「特定施設」および「特定建設作業」に対して適用されます。

特定施設とは、工場や事業場・車両など騒音の発生源となる設備を指し、一方の特定建設作業は建設現場での作業のことを指します。

大規模修繕工事を含む建設工事は、特定建設作業に該当し、騒音規制法の対象となります。

これにより、工事が行われる時間帯や騒音の許容レベルに対して制限が設けられています。

時間帯に関しては、一般的に「昼間」「夜間」に分けて規制が設けられており、特に夜間や早朝の騒音は厳しく規制されます。

昼間は比較的騒音レベルの許容範囲が広いものの、住宅街などの生活環境が良好に保たれている地域では基準が厳しくなる傾向があります。

騒音レベルの基準は、地域の用途地域や場所の用途によって異なり、音の大きさをデシベル（dB）で測定して規定されています。

たとえば住宅地域では、昼間でも一定のデシベル数を超えないように設定されています。

また、騒音測定は一定の方法に従って行われ、騒音源からの距離や測定場所の環境条件によって数値が異なるため、適正な測定方法が定められています。

これにより、客観的かつ公平な騒音評価が可能となっています。

法律が守るべき生活環境の基準

騒音規制法が守ろうとするのは、国民が健康的かつ快適に生活できる環境の維持です。

具体的には、騒音によって睡眠障害やストレス・聴覚障害などの健康被害が生じることを防止することを目指しています。

また、住宅地域や学校・病院などの環境は特に保護されており、これらの場所ではより厳しい騒音基準が設けられています。

これにより、子どもや高齢者・病気の人など、騒音に対して特に配慮が必要な人々の生活環境を守ることが可能です。

騒音規制法は、単に数値基準を守るだけでなく、地域社会全体の調和を重視しています。

つまり、工事や事業の経済的な必要性と、住民の生活環境の保全という二つの観点をバランスよく調整する役割を果たしています。

さらに、この法律に基づく地域の環境基準は、地方自治体ごとに条例として具体的な運用がされていることも多く、地域特性に合わせた柔軟な対応が行われています。

こうした仕組みにより、国民の生活環境の質が保たれ、騒音問題による社会的な摩擦を減らすことが期待されています。

参考：環境省　騒音規制法パンフレット

マンションの大規模修繕における騒音対策

マンション大規模修繕工事中の騒音を適切に管理することは、工事を円滑に進行させ、住民の不快感を最小限に抑えるうえで非常に重要です。

騒音対策は、工事業者・管理組合やマンションオーナー・居住者が、それぞれ連携して取り組む必要があります。

工事業者ができる騒音対策

マンションの大規模修繕では、ある程度の騒音発生は避けられません。

しかし、工事業者側の工夫と配慮によって、住民への影響を大幅に軽減することが可能です。

ただ単に作業を進めるだけではなく、以下のような騒音対策を行うのも工事業者の大切な役割と言えます。

• 定められた時間帯での作業…住民の生活リズムや地域の規制に配慮し、日中の決まった時間帯に限定して工事を行う
• 低騒音機材や工法の採用…電動工具や静音型機材・無振動ドリルの活用によって、騒音の発生源を根本から抑えるための技術的配慮と施工方法の工夫
• 吸音材や防音シートの活用…工事現場の周囲や高所の足場に吸音・防音資材を配置することで、近隣への音の拡散や反響を軽減させる
• 窓を閉めての作業…室内への音の侵入を防ぐために窓を閉めて作業を実施し、室内騒音と住民への心理的負担を軽減する
• 管理組合やオーナーとの連携…工事前からの相談や定期的な打ち合わせを通じて、騒音への対応策を共有する

管理組合・マンションオーナーができる騒音対策

大規模修繕工事を円滑に進めるためには、管理組合・オーナーと住民・近隣住民との信頼関係が欠かせません。

騒音によるトラブルを防ぐためにも、情報の一方通行ではなく、意見交換やフィードバックの仕組みを整えながら対策を行うことが大切です。

• 住民や近隣への工事の周知…掲示やチラシで計画を告知したり、周辺住戸や近隣施設への事前説明を行ったりして理解を促す
• 透明性の確保と継続的なコミュニケーション…住民の不安の解消や相互理解を深めるための進捗報告や質疑応答の場を設ける
• 住民への配慮の具体化…生活スタイルに応じた時間帯調整や個別対応を通じて、心地よい居住環境を維持し安心感を提供する
• 工事時間の設定への住民の意見反映…住民の要望を取り入れて作業時間を調整する
• トラブル予防と対応体制…苦情受付窓口や緊急対応フローを整備し、万が一のトラブルに対応できるような体制づくりを行う

居住者ができる騒音対策

大規模修繕工事の期間中は、一定の騒音が避けられないため、居住者自身もできる範囲での工夫が必要です。

快適な生活を維持するためには、騒音を受け入れつつ上手に付き合う姿勢や、自宅での過ごし方を見直すことを意識しましょう。

• 自宅内での防音対策…防音カーテンや防音フィルムの設置・隙間を塞ぐなど、騒音を軽減するための工夫を行う
• 日中の活動の調整…外出を計画したりリラックス時間を夕方以降にずらしたりして、騒音の大きい時間帯の過ごし方を調整する

マンション大規模修繕の騒音対策は、工事業者・管理組合・居住者がそれぞれの役割を果たし連携することが不可欠です。

適切な対応により、住民の生活への影響を抑え、トラブルの発生を防ぎながら円滑な工事進行を実現します。

快適な居住環境を維持するためには、全員で協力することが重要なポイントです。

騒音が負担と感じた際に住民がすべきこと

大規模修繕工事中に騒音が大きな負担と感じた場合は、無理に我慢せず、早めに相談することが大切です。

まずは管理組合や管理会社に連絡し、現在の状況や感じているストレスを具体的に伝えましょう。

感情的にならず、時間帯や音の種類など客観的な情報を整理して伝えることで、対応策を検討してもらいやすくなります。

また、同じように悩んでいる他の住民がいないか確認し、共有の声として相談するのも有効です。

一方で、工事の性質上ある程度の騒音は避けられないことも理解し、改善を求める際には柔軟な姿勢を持つことも重要です。

苦情ではなく「相談」として伝えることで、関係性を悪化させずに話し合いが進められます。

問題を抱え込まず、適切なルートかつ丁寧に声を上げることが、健全な住環境づくりにつながるでしょう。

騒音対策をしなかったらどうなる？

マンションなどの大規模修繕工事で騒音対策を怠ると、住民や近隣住民とのトラブルが深刻化する恐れがあります。

生活環境への悪影響は日常のストレスを増大させ、クレームや苦情の増加、場合によっては法的措置に発展することも少なくありません。

こうした事態は工事関係者だけでなく、管理組合にとっても大きな負担となるでしょう。

住民や近隣住民からの苦情やクレームの発生

修繕工事に伴う騒音は、日常生活の妨げとなり、多くの住民や近隣住民から苦情やクレームが寄せられる大きな要因です。

特に長期間にわたる工事や早朝・夜間の作業では、ストレスや不快感が増幅し、管理組合や管理会社に対して直接的な問い合わせや抗議が相次ぐことが多くなります。

騒音規制に則った工事であっても、個々の感じ方には差があるため、トラブルに発展しやすい問題です。

これは、マンションの居住環境が悪化し、住民間の関係にも悪影響を及ぼす原因にもなりかねません。

損害賠償請求の発生

工事の騒音や振動が著しく大きく、居住者の健康被害や精神的苦痛、さらには建物の損傷が生じた場合、施工業者や管理組合に対して損害賠償請求がなされる可能性があります。

騒音による差し止め請求や慰謝料の支払いが認められるケースもあるため、決して軽視してはいけません。

こうした法的トラブルは工事の進行に深刻な影響を及ぼし、管理組合の信用失墜や費用増大につながるため、非常に大きなリスクになり得るでしょう。

工事の遅延や中断

騒音問題や住民とのトラブルが悪化すると、工事の進捗に影響が出ることが避けられません。

苦情の対応や法的な問題が発生すれば、工事の遅延や一時中断を余儀なくされる場合があります。

工事が中断されると、計画通りの修繕ができません。

居住環境の改善が遅れるだけでなく、追加費用の発生や住民の不満が拡大し負のスパイラルに陥ることもあるでしょう。

このような事態を防ぐためにも、騒音対策を徹底して行い、万が一トラブルが発生した場合は早急かつ丁寧に対応する姿勢が求められます。

まとめ

マンションの大規模修繕工事は、建物の耐久性や安全性を確保し、快適な居住環境を維持するために欠かせない重要な作業です。

しかし、その過程で発生する騒音は、居住者にとって大きなストレスとなりやすく、生活の質に影響を与えることも少なくありません。

特に、足場の組み立てや解体・高圧洗浄・外壁の補修・舗装の撤去といった工程では、どうしても音が大きくなる傾向があります。

これらの作業は工事の安全性や仕上がりの品質を保つために避けられないため、完全に騒音をなくすことは現実的に難しいのが現状です。

しかし、騒音対策を講じることで、居住者の負担を軽減することができます。

たとえば、作業時間を住民が比較的過ごしやすい時間帯に限定したり、騒音を抑えるための防音シートや遮音壁を設置したりする方法があります。

さらに、工事のスケジュールや内容を事前に居住者に十分周知し、疑問や不安を解消することで、トラブルを未然に防ぐことも重要です。

管理組合と施工業者が連携して、居住者の意見や要望を取り入れながら柔軟に対応していく姿勢が求められます。

また、居住者もできる対策を行ったうえで、騒音が負担になってきた時には、適切な方法で相談することが大切です。

工事を理解しようとする姿勢や、できる限りの協力を心がけることで、工事全体の円滑な進行と管理組合やオーナーとの信頼関係の構築につながるでしょう。

騒音は大規模修繕工事に伴う避けがたい問題の一つですが、原因と対策を理解し、関係者全員が協力して取り組むことで、居住者の生活への影響を最小限に抑えることができます。

快適な住環境を守るためには、こうした配慮や準備が不可欠であり、住民の安心と満足につながる工事の成功を目指すことが大切です。