防水工事とは、建物に雨などの水分が侵入するのを防ぐために行う工事です。
建物にとって重要な工事ではありますが、防水工事を施工するために必要な資格や免許は基本的にはありません。
それでもなかには、キャリアアップを目指したい方や作業の質を向上させたい方もいるでしょう。
そこで本記事では、防水工事に必要な資格の種類・取得方法・試験対策などについて解説します。
資格取得後はキャリアにも良い影響を与えるため、防水工事のプロフェッショナルを目指したい方は、ぜひ参考にしてみてください。
目次
防水工事資格とは:重要性とメリット
防水工事を施工する人は「防水工」と呼ばれ、建築現場で作業を行うことが多く主に下記のような工事作業を請け負っています。
- ウレタン防水工事
- シート防水工事
- FRP防水工事
- アスファルト防水工事
基本的に防水工として働く上で資格は必要ありませんが、その分、防水工の腕によって仕上がりは大きく異なります。
そこで重要になるのが防水工事資格なのです。
防水工事の役割と効果
まずは、防水工事の役割について見ていきましょう。
防水工事には、
- 建物の見た目を綺麗に保つ
- 建物の強度を保持する
- 建物へのカビの発生を防ぐ
といった役割があります。
建物に水が浸潤すれば、その箇所に染みができたり変色したりして美観を保てなくなります。
影響が見た目だけにとどまれば良いですが、内部にまで水が浸食すると建物自体の強度が落ち、寿命は短くなるでしょう。
そのため、長期にわたって建物の安全を維持するためにも防水工事は重要なのです。
資格取得のメリットと市場価値
では、資格の必要ない防水工にとって資格の取得にはどのようなメリットがあるのでしょうか。
防水工事に関する資格を持っていると、専門知識を有していることの証明になります。
すると、安心して施工を任せてもらえたり、収入アップに繋がったりするでしょう。
実際、防水工の中で資格を取得しているのは一部の人のみです。
そのため、防水工事に関連する資格を取得することで専門スキルが認められ、防水工事を取り扱う住宅関連の会社や塗装業界などに転職できる可能性も広がります。
主要な防水工事資格の種類
防水工事に関する資格には、
- 防水施工技能士
- 防水診断士
- その他の関連資格
が挙げられます。
それぞれ、資格を取得することで得られるものや必要な能力が異なります。
防水施工技能士の概要
防水工事に関連する資格でとくに持っておくべきものは「防水施工技能士」の資格です。
防水施工技能士の資格は国家資格である技能検定制度の1つであり、防水に関する知識やスキルを持っていることの証明になります。
防水施工技能士の概要は以下の通りです。
試験日程 | 実技試験:6月上旬~9月中旬/12月上旬~2月中旬学科試験:7月上旬~9月中旬/1月上旬~2月上旬 | |
受験料 | 学科:3,100円実技:18,200円※都道府県によって異なる可能性あり | |
試験内容 | 学科試験と実技試験 | |
公式サイト | https://www.javada.or.jp/kyoukai/itiran.html |
防水施工技能士には、1級・2級と2つの等級があり、受験資格や試験の難易度が異なります。
ここからはそれぞれの等級について特徴を比較していきましょう。
1級防水施工技能士の特徴
1級防水施工技能士は、防水工事において上級技能者と位置づけられる存在です。
受験資格についても、実務経験が7年以上と多くの経験を積んできた人のみが受けられる試験になっています。
学科試験と実技試験の両方を合格する必要があり試験の難易度も比較的高く、令和3年度の合格率は55.3%となっています。
参考元:令和3年度「技能検定」実施状況
1級防水施工技能士に合格すれば、深い知識と高いスキルを証明でき、施工管理者として働くためにも役立つでしょう。
2級防水施工技能士の特徴
1級防水施工技能士は、防水工事において中級技能者と位置づけられる存在です。
受験資格についても、実務経験が2年以上と1級に比べると受験対象の幅が広がります。
ただし、こちらも学科試験と実技試験の両方を合格する必要があるため簡単に取得できるものではありません。
2級防水施工技能士に合格して1年以上の実務経験を積めば、防水工事の専任技術者となることができるので、資格手当がもらえるなど収入アップに大きく影響するでしょう。
防水診断士の概要
防水工事に関連する資格でもう1つ重宝されるのが、防水診断士(雨漏り診断士)の資格です。
防水診断士の資格はNPO法人雨漏り診断士協会が実施する認定試験に合格することで得られます。
試験に合格すると雨漏り診断士協会に登録され、防水工事と親和性の高い雨漏りについての専門知識を持っていることの証明になります。
ここでは、防水診断士の概要について紹介します。
試験日程 | 毎年10月頃 | |
受験料 | 11,000円 | |
試験内容 | 学科試験のみ | |
公式サイト | https://www.amamorishindan.com/authorize.html |
近年人気が高まっている資格の1つで、受験の申し込みがはじまった当日でないと定員オーバーになってしまうこともあるようです。
申し込みができなければ、次回以降の試験で再度申し込みをする必要があるので、資格を取得したい場合は日程を把握しておくことが重要です。
その他の関連資格と役割
防水工事に関連する資格は他にも存在し、
- シーリング防水施工技能士
- 雨漏り鑑定士
などが挙げられます。
シーリング防水施工技能士は、防水工事によく使われるシーリング材の扱いに長けていることを証明できる資格です。
また、雨漏り鑑定士は、雨漏りトラブルを未然に防ぐ知識と技能を持っていることを証明できる資格です。
それぞれの資格によって証明できるものも違うため、自分が働いている環境や進んでいきたいキャリアにあわせて取得する資格を選ぶと良いでしょう。
防水工事資格の取得方法と試験対策
防水工事に関する資格を取得したいと思っていても、
- そもそも受験資格はあるのか
- どんな試験なのか
- どのような対策をすれば良いか
などが分からない方も多くいるでしょう。
そこでここからは、主な防水工事資格である防水施工技能士と防水診断士について受験資格や試験内容、効果的な勉強法を解説していきます。
自分が受験する資格の内容を詳しく知っていきましょう。
各資格の受験資格と試験概要
まずは、それぞれの受験資格についてまとめます。
1級防水施工技能士 | 7年以上の実務経験、または2級合格後2年以上の実務経験 |
2級防水施工技能士 | 実務経験2年以上 |
防水診断士 | 試験当日に満20歳以上 |
防水施工技能士は国家資格のため実務経験などの条件がしっかりと決まっています。
実務経験が少ないながら1級防水施工技能士を目指したい場合は、2級を取得してから1級を受験するのが良いでしょう。
最短4年の実務経験で1級を取得することが可能です。
一方、防水診断士は民間資格のため、実務経験などは必要ありません。
1級防水施工技能士の試験内容
1級防水施工技能士では、試験内容が学科試験と実技試験に分かれます。
学科試験は、
- 建築一般
- 製図
- 関係法規
- 安全衛生
- 選択科目
の項目から出題されます。
選択科目では、
- アスファルト防水施工法
- ウレタンゴム系塗膜防水施工法
- アクリルゴム系塗膜防水施工法
- 合成ゴム系シート防水施工法
- 塩化ビニル系シート防水施工法
- セメント系防水施工法
- シーリング防水施工法
- 改善アスファルトシートトーチ工法防水施工法
- FRP防水施工法
の中から自分の実務経験にあわせた1つを選択してください。
問題数は50題で試験時間は100分です。
実技試験では、
- アスファルト防水工事作業
- ウレタンゴム系塗膜防水工事作業
- アクリルゴム系塗膜防水工事作業
- 合成ゴム系シート防水工事作業
- 塩化ビニル系シート防水工事作業
- セメント系防水工事作業
- シーリング防水工事作業
- 改善アスファルトシートトーチ工法防水工事作業
- FRP防水工事作業
の中から1つを選択します。
学科試験の選択科目と同じ防水工法を選択するのが基本でしょう。
2級防水施工技能士の試験内容
2級防水施工技能士についても基本的な出題範囲は1級と同じです。
実技試験においても選択科目は同じですが、試験の難易度が異なります。
実技試験の難易度が変わるとはいえ、建築に関する一般知識や法令など専門知識を広く知る必要があるため、しっかりと勉強時間を確保することをおすすめします。
防水診断士の試験内容
防水診断士については学科試験のみで、
- 建物の基礎知識
- 雨仕舞いの基礎知識
- 防水・塗装の基礎知識
- 雨漏り診断の基礎知識
- 雨漏り診断の実例・実務
の範囲から出題されます。
試験実施日には、NPO法人雨漏り診断士協会が主催する認定試験対応講習会が行われているので、こちらを受講してから試験に進むのがおすすめです。
効果的な勉強法と対策
どの試験においても、専門知識を頭に入れることが試験合格の鍵です。
それぞれ実施している団体のホームページなどに過去出題された問題などが公開されているので、それらを利用して勉強を進めましょう。
また、防水施工技能士については実務試験が難しいとも言われています。
限られた時間の中で防水作業を完成させる必要があるため、作業の合間などを使って練習などをしておくと良いでしょう。
資格取得後のキャリアパス
ここまで資格の取得方法や試験の概要を紹介してきましたが、実際に働く方にとって気になるのは資格取得後のキャリアパスでしょう。
資格を取得することで別の職種に移れる可能性もあります。
ここでは、資格取得後に起こる変化について解説していきます。
資格を活用できる職種と働き方
まず、防水施工技能士の資格を取得すると、防水工事の専任技術者になれたり、施工管理者として働けたりします。
施工管理者は工事の施工に関する予算や安全面、役所への届け出など工事に関わるさまざまなことを管理する職種です。
防水工として働いている時は現場仕事が多くなりますが、施工管理者になればデスクワークも増え、身体的負担が減るでしょう。
スキルアップのための研修やセミナー
1つ防水工事に関する資格を取得すれば、他にも専門知識を得たくなるという場合もあるでしょう。
民間団体をはじめ、さまざまなところでスキルアップのための研修やセミナーが行われています。
知識の幅を広げ、業務範囲を拡大させることは転職にも有利に働くかもしれません。
資格保持者の就職状況と収入
なんといっても資格取得の醍醐味は収入アップでしょう。
厚生労働省が発表している「賃金構造基本統計調査」によると、防水工の平均年収は433万円となっています。
しかし、専任技術者になり資格手当がつくなどすれば必然的に収入もアップするでしょう。
また、防水施工技能士の資格を求めた求人では、
- 施工管理士
- 塗装工
などの職種で優遇されるなど記載もあるため、積極的にとりたい資格といえます。
まとめ:防水工事資格でキャリアを築こう
今回は、防水工事に関する資格について解説しました。
防水工として働く上で資格は必要ありませんが、資格を持っていると安心して工事を任せられる基準にもなります。
とくに、関連性の高い資格は「防水施工技能士」です。
ある程度の実務経験が必要な国家試験で、決して簡単に取得できるものではありませんが、資格の取得はキャリアアップや収入アップに繋がるでしょう。
学科試験については過去出題された問題などを利用しながら勉強し、実務試験についても数回練習しておくことで準備を進められます。
今後、
- 防水工以外の職種を目指したい
- 収入をアップさせたい
- 作業の信頼度を高めたい
と感じている方は資格取得も視野に入れて、働くことをおすすめします。