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大規模修繕の見積もり方法と選び方のコツ

大規模修繕の見積もり方法と選び方のコツ

大規模修繕の見積もり方法と選び方のコツ

2024/09/06

ビルやマンションなどのあらゆる建物は、年数とともに劣化が進むため、定期的なメンテナンスとして大規模修繕工事を行います。

築年数や建物の状態によって工事金額は変動するため、どのくらいの費用になるかを把握するには見積もりの取得が必要です。

そこで本記事では、大規模修繕の見積もりに関する取得方法や内容の詳細を比較する方法を解説します。

工事を依頼するにあたってのコスト削減方法やトラブルを回避する対処法についても説明しますので、ぜひご覧ください。

大規模修繕とその重要性

大規模修繕は、年数の経過によって起こり得る建物の劣化を防ぎ、居住する人々の安全を守るためにとても重要な工事です。

どれだけ優れた建築資材を使用して建築した建物であっても、雨や風などの天候や何人もの人々が生活する場なので、年数が経過すれば劣化するのは当然のことです。

また、大規模修繕によって建物を健康に保つことは安全性だけのためではありません。

大規模修繕をすることは、その建物の資産価値を維持するためにも重要と言えるでしょう。

大規模修繕の定義

ここでは、大規模修繕の定義を「国土交通省のガイドライン」「建築基準法第2条14号および15号」から紹介します。

大規模修繕の定義について、国土交通省のガイドラインでは以下のように考えられています。

・大規模修繕は「マンションの快適な居住環境を確保し、資産価値を維持するために行う修繕工事や、必要に応じて建物及び設備の性能向上を図るために行う改修工事のうち、工事内容が「大規模」工事費が「高額」「工事期間が「長期間」にわたるもの等をいう。

出典:長期修繕計画作成ガイドライン 国土交通省

また、大規模修繕の定義は建築基準法第2条14号および15号で以下のように記されています。

・建築物の主要構造部 ( 壁、 柱 、床 、 はり、 屋根 、 階段 )の一種以上について行う過半の修繕、 模様 替え」と定義され、例えば6本の柱のうち4本を修繕 すれば、大規模修繕とされる。また、瓦葺の屋根を 全面金属板葺きに変更する行為は、大規模模様替 とされる。

出典:「建築基準法 第2条14号および15号」 法令検索 

大規模修繕は行おうと思って簡単に行えるものではありません。

工事を行うためにはしっかりと計画を立てる必要があることや、大規模修繕のためには何千万、ときには何億もの費用が必要になる場合もあるでしょう。

また期間も長く、費用も高額になることから各住戸に住む方々の協力を仰がなければなりません。

事実、大規模修繕にはクレームやトラブルが起こることも少なくないので、これらの点に関しても徹底した配慮を行う必要があります。

対象となる建築物の種類

大規模修繕の対象となる建物は「マンション」「アパート」の他に以下の建物も該当します。

  • 商業施設
  • オフィスビル
  • 公共施設

大規模修繕を行う周期はそれぞれ異なり、マンションやアパートは15年に1回程度が良いと考えられていますが、商業施設などの場合は周期的に大規模修繕を行わなければならないというルールはありません。

しかし、その建物を利用する方々の安全や資産価値を維持するためには、5年に1度の周期で設備状況や建物のチェックを行い、修繕計画の精度を高めることが必要です。

   <h3>大規模修繕の役割と効果</h3>

大規模修繕の役割は、ここまでで解説したとおり「安全性」と「資産価値の維持・向上」です。

特に、大規模修繕が行われる建物は人々が利用する場所なので、安全性の向上は必須となります。

また、大規模修繕で期待できる効果については建物を管理するオーナーと、建物を管理する管理会社によって少々異なります。

例えば、マンションやアパートの場合「入居率の維持・上昇」や「家賃水準の維持」などの効果が期待できます。一方、管理会社の場合「周辺物件との競争力強化」「住宅性能の維持」という効果が期待できるでしょう。

どちらの場合にしても、大規模修繕を行うことは多くのメリットが得られます。

ただし、大規模修繕でかかる費用は非常に高額になることや、入居者・近隣住民からの理解を得て行う必要があるので、入念な計画が必要となります。

見積もり方法のステップ

見積もり方法のステップ

次は、実際に大規模修繕を依頼する際の見積もり方法について3つのステップで紹介します。

事前調査の実施

まずは事前調査の実施です。

  • 目視で修繕が必要と考えられるところはないか
  • 住民・建物の利用者へのアンケート
  • 建物診断

自身が目視で建物をチェックしたとき、修繕が必要だと考えられる箇所はないかというチェックはもちろん実際にその建物に住んでいる住民や、建物を利用する方へのアンケートも必須です。

特に、アンケートは匿名性にすることでさまざまな意見を得られる可能性が高まります。

また、建物の劣化具合を診断し、状況を把握する「建物診断」は、大規模修繕を行う時期や結果にもとづく修繕仕様書案の立案、修繕工事の概算費用を算出するためにとても重要です。

修繕計画書の作成

事前調査が完了したら、次は修繕計画書の作成に移ります。

修繕計画書とは、大規模修繕工事を行う年度や概算費用をまとめたもので、建物本体や設備の修繕に必要な時期やかかるであろう費用を設定します。

修繕計画書の作成方法には大きく分けて3つの方法が挙げられるでしょう。

  • マンションの管理会社に依頼する
  • 専門家に依頼する
  • 作成ツールやソフト、Excelなどを使用して管理組合で作成・管理する

①のマンションの管理会社に依頼する場合、相場は10万円〜20万円前後、②の専門家へ管理組合として顧問契約を結ぶ場合は、月々5万円程度がかかると考えられます。

ただし、管理組合ではなく個人的に契約を結ぶ場合、基本料金が約10万円にプラスして建物診断費用などを含めて60万円〜100万円以上の費用がかかる場合もありますので、注意が必要です。

③の場合、かかる費用を削減できるので1番取り掛かりやすい方法となっています。

このとき覚えておきたいのは「国土交通省の標準様式に即して作成すること」です。

国土交通省の標準様式で定められている「修繕計画書に記載すべき項目」は以下4つです。

  • 計画年数:計画年数:長期修繕計画の期間。約25~30年の範囲内で設定する。
  • 推定工事項目:修繕が必要な箇所の、工事単価、修繕周期、施工面積
  • 収支計画:大規模修繕工事に関わる支出と、修繕積立金の累計額のバランス。
  • 修繕積立金の金額:計画に対して必要な修繕積立金を設定する。

標準様式とは、わかりやすく言うと「ひな形」や「見本」という意味です。

また、国土交通省では、インターネットで「長期修繕計画の構成例」と「長期修繕計画書標準様式」を公開しており、こちらを参考にして作成することで修繕工事の収支や計画を適切に予測できます。

出典:長期修繕計画の構成(例)と長期修繕計画標準様式 国土交通省

複数業者による見積もり依頼

建物診断や修繕計画書の作成ができたら、次は複数の業者へ見積もり依頼です。

複数の業者へ見積もりを取ることを「相見積もり」と言い、相見積もりを行うことでそれぞれの業者の比較・検討ができるというメリットがあります。

大規模修繕は高額な費用と長期的な期間がかかるので業者選びがとても重要です。

しかし、見積もり業者とひとまとめにしても数多くの業者がいますので、一体どこに見積もりを出せば良いのか悩んでしまう方もいるでしょう。

そんなときは無料一括見積もりサービスなど、事前に業者が選定されている状態の見積もりサービスを利用することでスムーズに見積もりを取ることができます。

無料一括見積もりサービスを利用する際の注意点は以下のとおりです。

  • 見積もり結果だけを見て業者を選ばないこと
  • 共通仕様書を作って業者を比較しやすくすること
  • 無料見積もり一括サイトは「概算」なので参考程度に留めること

インターネットでよく見かける無料一括見積もりサービスは、簡単な情報を入力するだけで複数の業者から見積もりを取れる便利なサイトとなっています。

しかし、中には受注を取りたいがために仕様や材料のグレードを落として安値にしている業者がいないわけではありません。

また、無料一括見積もりサービスを利用する際はすべての業者が同じスタートラインに立てるよう、工事範囲や施工方法、材料の種類やグレードなどを統一した「共通仕様書」の作成がおすすめです。

すべてを統一させれば、それぞれの業者が提示する価格が安いか高いかを比較しやすくなります。

ただし、共通仕様書は専門家に依頼して作成すると、工事費用の1〜2割程度の費用がかかります。修繕を依頼する建物の規模によっては採算が合わなくなる可能性もありますので注意が必要です。

その他にも、無料一括見積もりサイトは図面や外観写真などの資料をもとにして割り出される概算であり、実際に建物を目視で確認して出されるわけではないので、あくまで参考としてください。

見積もりの詳細比較

見積もりの詳細比較

次は、見積もりの詳細比較について紹介します。

単価や工事範囲を検討

見積もりが取れたら、単価の相場や工事範囲はどこまでかを確認することが大切です。

国土交通省が令和3年度に調査した「マンション大規模修繕工事に関する実態調査」によると、1戸あたりの工事金額は100万〜125万円が多い結果となりました。

わかりやすく1戸100万円と仮定すると30戸の小規模マンションやアパートの場合は3,000万円、タワーマンションなど100戸を超える大規模マンションの場合は1億円以上が料金相場です。

また大規模修繕工事で主に行われる「防水工事」「外壁工事」「設備工事」の3つは使用される材料などによっても単価が異なります。

例えば、防水工事で使用される材料の種類と単価は以下のとおりです。

種類 相場(㎡単価)
シート防水 4,000~7,000円
ウレタン防水 5,000~6,000円
アスファルト防水 4,500~7,000円
FPR防水 5,000~7,000円

※単価は当編集部が独自に調査した結果から算出しています。

※2023年4月現在の情報です。

次に外壁工事で使用される材料の種類と単価を見ていきます。

塗料 相場(㎡単価)
アクリル 1,000円〜1,800円前後
ウレタン 1,700円〜2,500円前後
シリコン 2,300円〜3,000円前後
ラジカル 3,500円前後
フッ素 4,500円前後

※単価は当編集部が独自に調査した結果から算出しています。

※2023年4月現在の情報です。

このように、業者が工事で使用する材料によって単価は異なるので、見積もりが取れたら複数の業者と比較して納得の行く料金で工事を依頼できるかをチェックする必要があります。

最後に設備工事ですが、設備工事の中でも大がかりな工事となる「給排水設備の交換費用」は1棟あたり約70万円〜最大200万円前後が相場です。

また、単価と同様にチェックが必要な対象範囲の例として、マンションなどの集合住宅で大規模修繕工事を行う場合の対象範囲は「エントランス」や「エレベーター」「駐車場」「外壁」「廊下」「屋上」「ベランダ」が該当します。

修繕を依頼したい範囲は対象となっているかもしっかりとチェックしておきましょう。

実績や口コミをリサーチ

単価や範囲をチェックした後は、業者の実績や口コミのリサーチも大切です。

  • 大規模修繕工事の実績は豊富か
  • 業者の対応はどうか
  • 建設業許可を取得しているか

など、大規模修繕工事を任せるにあたって信頼できるかをチェックしましょう。

例え、他の業者と比較して圧倒的にリーズナブルな価格で工事を依頼できる業者であっても、実績が少なかったり、口コミが悪かったりする業者は何らかのトラブルを引き起こしかねません。

できれば安く工事を済ませたいものですが、料金だけに騙されず実績や口コミもチェックして業者を選ぶことで、円滑かつ満足度の高い大規模修繕工事が行えるでしょう。

保証やアフターケアの確認

業者を選ぶ際は、保証やアフターケアの確認も大切です。

大規模修繕工事の保証としては「大規模修繕瑕疵(かし)保険」が挙げられます。

大規模修繕瑕疵保険とは、加入者である工事業者が行った大規模修繕工事で不具合や欠陥が見つかった場合、補償が受けられる保険のことです。

大規模修繕工事はとても高額になるので、もしものことがあった際、保証があれば安心です。

また、大規模修繕瑕疵保険は、瑕疵があるにも関わらず業者が何らかの理由によって補償できない場合でも、保険法人が保険金を払ってもらうことができます。

そのほかにも、工事後の点検やメンテナンスなど、アフターケアサービスが完備されている業者を選ぶことで、建物の健康を保つことができます。

コスト削減の秘訣

コスト削減の秘訣

「大規模修繕工事をしたいけれど、料金が高い」とお悩みの方へ。

ここではコストをなるべく削減させるための秘訣を3つ紹介します。

工事のタイミングを見直す

大規模修繕工事は、2021年の9月28日に国土交通省のガイドラインが改正されるまで12年に1度の周期が国土交通省から推奨されていました。しかし2021年9月28日以降から15年に1度が推奨されるようになったことで、12〜13年目あたりから徐々に工事の検討を開始する方もいます。

そうなると必然的に大規模修繕業者の需要が高まり、結果的に通常よりも値上げをする業者が現れる可能性も大いに考えられます。

また、工事のタイミングを以下のように見直すことでコスト削減に繋がる可能性もあるでしょう。

(例)

マンションの大規模修繕工事を60年目に実施する

  • 12年に1回周期の場合、5回目の大規模修繕工事が60年目にあたる
  • 15年周期に1回へ見直した場合、4回目の大規模修繕工事が60年目にあたる

こう考えると15年周期にすると1回分節約できたことになりコスト削減成功です。

ただし、周期を伸ばすということは建物の劣化が進んでしまい結果的に修繕費用が余計にかかるリスクや、外観や住み心地に対して入居者からクレームを受けるリスクもあります。

そのため、工事のタイミングを見直してコスト削減したい場合は管理組合で相談するだけでなく専門家の意見や、実際にそこで生活する入居者や利用者の意見も取り入れることが大切です。

助成金や補助金の活用法

大規模修繕工事のコスト削減には「助成金」や「補助金」の活用も有効です。

中でもアスベスト除去に関する助成金や補助金が多く、アスベストによる健康被害が報告されてから、地方自治体が市民の安全や安心を確保するために支援を続けています。

  • 民間建築物に施工されたアスベスト除去等に対する補助や融資
  • アスベストを含有しているおそれのある吹付けられた建材の、アスベスト含有調査に要する費用(消費税を除く)の全額を補助
  • 吹付けアスベスト等の分析調査や除去工事等を行う場合の補助など

この他にも、劣化診断に対する補助金や、マンション管理組合による防災対策や安全管理推進を目的として共用部を工事する際に補助金が出る「防災対策整備補助金」などもあります。

これらの助成金や補助金は建物がある市区町村の役場で申請可能です。

賢く精度を活用することで、大規模修繕工事のコストを削減する効果が期待できます。

集団注文や一括見積もりの活用

無駄なコストを削減するためには、集団注文や一括見積もりの活用も最適です。

集団注文や一括見積もりをすれば、その都度かかる費用を削減できます。

また、設計〜施工まで同じ業者に一括発注すれば管理組合の業務やスケジュール作成など手間がかかる作業を軽減することもできるでしょう。

トラブル回避と対処法

最後に、大規模修繕工事で起こり得るトラブルを回避・対処する方法を3つ紹介します。

契約前に確認すべき事項

トラブルを回避するためには、契約前に以下の事項を確認しておきましょう。

  • 工期・納期
  • 発注者名
  • 請負者名
  • 工事名
  • 場所
  • 請負代
  • 支払い条件
  • 瑕疵保険やアフターケア

この他にも、書類はしっかり揃っているかや、見積もりに抜けはないか、捺印はあるかなども改めてチェックしてください。

進行状況の管理と意思疎通

予期せぬトラブルを回避するためには、大規模修繕工事の進行状況管理や業者、入居者との意思疎通がとても大切です。

特に大規模修繕工事前の告知は、誰もが目にする場所に張り紙として設置したり、入居者へ挨拶を兼ねて報告を行ったりすることで、トラブルの回避・対処に効果が期待できます。

トラブル時の対応策と相談窓口

「気を付けていたけれどトラブルに発展してしまった」という場合の対応策として相談窓口の利用がおすすめです。

相談窓口として国土交通省が推奨しているマンション管理センターや(公財)住宅リフォーム・紛争処理支援センターは、大規模修繕工事において発生したトラブルはもちろん、建築士等によるアドバイスも受けられます。

マンション管理センター TEL:03(3222)1519

(公財)住宅リフォーム・紛争処理支援センター TEL:0570(016)100

まとめ

本記事では、大規模修繕工事の見積もりについて紹介しました。

大規模修繕工事は、建物の健康を守り、資産価値の維持にも繋がる大切な工事です。

費用が高額になるケースや、入居者との兼ね合い、見積もりをどう取れば良いのかわからないなど、なかなか工事に踏み切れないという方もいらっしゃるかと思います。

そんなときは、本記事で紹介した見積もりを取る方法を参考に、一括見積もりや専門家への相談を利用して大規模修繕工事への準備を整えていきましょう。

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